東京オリンピックの空手について

東京オリンピックが閉幕しましたね。

賛否両論あふれる中でしたが、今回のオリンピックは初めて空手が採用されたこともあり、伝統空手に注目が集まったことがとてもうれしかったです。

周囲に空手をやっている知り合いがいないためか、多くの方に質問・疑問をもらいましたし、話題に出してもらいました。

加藤は空手も継続して稽古しており、現在四段で空手も大好きです。昨日も稽古をしていました。

チャットやメールでの返答がそこそこの量になったので、下記の通り章立てにして共有させて頂きます。

1.空手の日本での普及度合い、名前だけ有名、実際は見たこと無い

空手はK-1やPRIDE、RIZINなどの格闘技番組で頻繁に取り上げられてきたので名称だけはメジャーなものの、実際の空手競技自体はほとんど見たことが無い、知らないという方が多いと思います。

おそらく一番大きな理由は、学校に空手部がほとんど設置されていないからでしょう。

全国の中学校の4%、高校の20%にしか空手部は設置されていません(スポーツ庁、2018年)。

”甲子園”に代表されるように日本で最も注目が集まる学校球技、野球の中学82%(軟式)、高校86%(硬式)や、最もメジャーな武道である剣道の中学60%、高校74%に比べると非常に普及していないと言わざるを得ない状況です。

そのため、空手経験者のほとんどが地域の武道館や町道場、もしくは大学部活・同好会などで初めて空手に触れる構造となっています。加藤も友人の友人が大学同好会で空手をしていて、そこに遊びに行ったのが空手との出会いです。

日本のスポーツは部活動の影響が多大ですから、空手は名称の認知度のわりに実態はかなりマイナーな競技、といっても差し支えないと思います。

そのような中、世界に普及した空手はついに五輪種目になりました。

実は世界空手連盟(WKF)の本部はマドリードにあります。世界的な普及が今回の決定を後押ししています。

今回の五輪正式種目化は空手関係者の悲願で、学生時代から傍でそれを眺めていた人間としては大変に感動しました。

開催地が東京に決まる前から、世界空手連盟も全日本空手道連盟もオリンピックのためにかなりの努力をし、ずっと働きかけていました。

自分自身は何もしていませんが、周囲の方々の長年にわたる努力が結実した集大成です。観戦に熱が入らないわけありません。

2.女子形の清水選手はなぜ負けたのか?

よく連絡を頂いた話として、女子形の清水選手とスペインサンドラ選手は何が違ったのか?というものがありました。

清水選手は腰のキレも下半身の連動も勢いも気迫も表現も、すべてが完璧でした。

サンドラ選手もこれ以上改善できないのではないかと思うくらいの完璧なキレと技術を見せていました。

それでも予選の段階では、清水選手に勝ってほしい、勝てる!と思ってみていました。

ただ、最後の形を清水選手が打った時、これは負けるのでは…と率直に思いました。

結果を知っているからそう書いているわけではなく、ほんとに見ている最中に負けたかもとドキドキしていました。残念ながら勝てず、銀メダルとなりましたね。

両選手とも、最高の演武をしました。

ではなぜサンドラ選手の方が評価されたのか?

あくまで自分の意見ですが、今回の審判団は日本的な「ねばり」や「緩急」よりも、「力強さ」や「速さ」を評価しているなと感じていました。

というのも、三位決定戦のアメリカ代表國米選手もかなりいい形を打ちましたが、負けました。

本人はなぜ負けたのか分からないといったような表情を見せましたが、國米選手の形も、ある種日本的にはとても良いとされ練習を重ねる、ねばりや緩急を重視した形でした。

要は、「タメ」が少し長かったとも言えます。

しかし、國米選手に勝ち銅メダルを獲ったイタリア代表の形は、速さとキレを重視したスピード感あふれる技でした。

この結果の後に行われた決勝戦、清水選手の形がとても緩急を重視した、タメをものすごくとる形だったので、演武の最中からこれは評価されにくいんじゃないか…と思っていました。

形は評価されて勝敗が決まりますので、どう評価させるかといったことはとても重要です。

サンドラ選手の突き蹴りの方が力強かったし、キレが良かった。タメをとるならばより力強さを見せなければいけなかったのですが、サンドラ選手のフィジカルが素晴らしすぎて”力負け”した印象を受けました。

同じチャタンヤラクーシャンクーを演武しているからこそ、その差が見えやすかったです。

今回の審判団には速さやキレの方がよく評価されたのではないか。

それだけではないと思うのですが、後日もっと代表団が分析をされて、今年後半の世界選手権以降に活かされることを期待します。

でも、本当にすごい形でした。

五輪なのでみんなとても簡単に完璧にこなしますが、例えば清水選手のチャタンヤラクーシャンクーは糸東流で最大難度の形です。

あんなに完璧にできること自体が脅威です。清水選手もサンドラ選手も本当にすごかった。

ちなみにチャタンヤラクーシャンクーは、沖縄の北谷(チャタン)村に住む屋良(ヤラ)という空手家が教えた公相君(クーシャンクー)という形を意味します。公相君は18世紀に清から琉球に来ていたとされる外交官・武人で、形を伝授したという話が残っています。

3.大相撲のモンゴル勢のような、空手のウィンブルドン現象

今回、形は日本勢が男子金、女子銀と素晴らしい結果を残しましたが、組手は荒賀選手の銅だけでした。

この結果を受けて、「空手って日本の武道なのにあんま勝てないね?」と多くの日本人が感じたのではないでしょうか。

これは空手をずっと見てきた人にってはほとんど大方の予想どおりの結果です。

個人的には西村選手ももしかしたら…と思っていましたが、まさかの残り0.0秒での逆転負けを喫して本線に出られませんでした。お父さんは世界選手権で優勝したこともある西村誠司というお方で、英才教育を受けて育ちました。空手一家のプレッシャーもあったでしょう、本当に惜しかった。

事実として、組手はここ数年、男女ともに世界大会で勝つことができていませんでした。

メディア露出が多く注目された植草歩選手ですら、世界大会での優勝は2016年の一度だけです。

組手でもっとも有名な荒賀選手でさえも、世界大会での優勝は同じ2016年だけです。

お二方とも、全日本選手権を何度も制覇している”日本の第一人者”ですが、世界ではなかなか勝てないのが現状なのです。

*世界選手権は二年に一度行われています。

荒賀選手、植草選手はともに30歳くらいでピークを越えている可能性もあり、2020年に行われればもう少し違った結果になったかもしれません。

ただ、手足の長さや瞬発力がルール上有利になる種目なので、これだけ普及しても日本人が上位にいること自体がすごいことだと思います。

形は日本勢が圧倒的に強かったですが、実は喜友名選手が出るまでは男子形はイタリアやベネズエラの選手が優勝する時代が長くありました。たまたま、オリンピックに重なる時期に喜友名選手がいてよかったと思います。

形も組手もイタリア、フランス、スペイン、ドイツ、トルコ、エジプト、イラン、ベネズエラ、アゼルバイジャン、中国など…世界の強豪がいる国は地域を選びません。

空手はウィンブルドン現象が起きるくらいに、充分に世界競技なのです。

しかし、今回の形に関しては、無理に五大陸とか難民選手団から選出したのは悪い意味で目立ちましたね。上位選手と下位選手のレベルの違いは、初見でも何となくわかったのではないでしょうか。

特に難民選手団の男子形選手は自分の実力不足をはっきりと自覚しており、最初から最高難度の形を出す=本選に進めないと分かっていたため、見ていて少々気の毒でした。

難民選手としてオリンピアンになった意義は大きいと思います。

が、もうちょっと純粋にランキング上位から出したほうがよかったかなと…形はヨーロッパやアジアに強い選手が多いので、あまり好ましくなかったんでしょう。選手数の制約もありますし、文句は言えません。

4.組手競技の難しさ、解決策はあるのだろうか…

組手競技は、全般的に分かりづらかったみたいですね。

VRをしないと熟練の高段者でも入っているかどうか分からないことがあるわけで(だから四人の副審が四方から判断するのですが)、オリンピックで初めて見る人にとっては、早くて何が何だかわからなかった感じだったと思います。

剣道も毎年11月に行われる全日本選手権がNHKで放送されていますが、これも打ち合いになるとどちらの面や小手が速かったか、なんて見ていても分からないですよね。

初めて空手を見た!という方にとって、今回の最大の疑問点は男子組手重量級決勝戦のKO反則負けの判定ではないでしょうか。

イランの選手がサウジアラビアに上段蹴りをまともにくらい、倒れたままとなりました。

そしてそのまま、サウジアラビアの反則負け。KOされて倒されたイランが金メダルを獲得するという顛末です。

実はこういったできごと、いままでもありました。

自分の記憶の中でも、学生時代に手伝いとして参加していた2008年に開かれた日本武道館での世界選手権、団体決勝の大将戦でも同じようなことがあったと記憶しています。

あれもたしか、上段蹴りが思いっきり入ってしまい、その場に相手が倒れこみました。壊れた人形のように崩れ落ちたのを覚えています。

ルール上、強打を受けてそのまま10カウント寝てると、攻撃した側が反則負けになってしまうんですよね。

このルール、ルールはルールだけどそれでいいのかという感じは空手に携わる人の中でも色々な意見があります。

だって空手ですよ?上段蹴りをキレイに決めて、相手を倒して、それで負けるというのは納得できない…食らったほうも失神した振りする方が得をしてしまいます。

しかし、悪法もまた法なので、ルールとして残り続けています。

サッカーのシミュレーションと同じで、大舞台であればあるほどカッコ悪くても勝つためにあざむく選手は出てきます。

特に決勝は、その後に試合が無いので「もうこれ以上戦えないくらいダメージを受けた!」と表現しやすい環境なんですよね。

空手が、ボクシングのような大きくて厚いグローブを付けない理由は素手の技術を生かすためで、それだと危険すぎるのでスキンタッチまでにしています。

昔はもっとハードヒットしないとポイントにならなかったのですが、五輪競技化のためには流血や危険行為はなるべく避けないといけなかったので、より厳密に当て具合や、当てすぎへのペナルティについて議論が行われてきました。

近頃はローカル大会でもハードヒットしないようにルールが改定されたりもしています。

そのような中、男子組手決勝で反則負け。予選でも顎を打ち抜かれてしまい初戦で棄権してしまった選手もいましたね。

これでは、”寸止め”とかいいながら空手のルールは危険すぎる、とIOCにまた危険視されかねません。

しかし、防具をがちがちにすると空手本来の技ではなくなる。

オープンハンドグローブにすると危険すぎる。

ハードヒットにするなら顔面への攻撃を止めるか、厚手のグローブを付けるなどが必要になるでしょう。

空手の初期には剣道の面を付けたり、ボクシンググローブを付けるなどの実験もありました。

これらの解決策が、戦後に成立した現在の「寸止め」です。

実際にはかなり当てており、打ち抜かないという意味なのですが、触れないと誤解している方も多いと思います。

理念としては剣道をかなり意識した、どちらが先に有効部位に十分な攻撃を与えたか、が勝敗を決めるルールとしました。

ちなみに、世界空手連盟(WKF)は有効な打突の条件を下記のように示しています(WKF、2020年)。

中々に日本の空手や剣道の有効な打突の理念をしっかり理解した文言で表してくれています。

a) Good form

b) Sporting attitude

c) Vigorous application

d) Awareness (ZANSHIN)

e) Good timing

f) Correct distance

上記の条件を満たすしっかりした突き蹴りを、激しい動きの中で当てすぎないように「極める」のは困難です。

なので、どの大会でもドクターを用意しなければいけません。そこそこの規模ならローカル大会でも一度や二度くらいはハードヒットが起こるものです。

ですが…正直なところ、決勝戦の上段蹴りは自分にはそれほどハードヒットをしたように見えませんでした。(初戦で棄権した組手選手は典型的なハードヒットでしたが)

表彰式にはけろっとした顔で出てきましたし、本当に脳震盪で立てないほどの当たり方だったのか?と疑念が残ります。多分違うでしょう。

「決勝戦はあまり上段回し蹴りを放つべきではない、シミュレーションで負けるから」、なんてアドバイスがされるようなルールのままでは、五輪競技としての定着は難しいでしょう。

空手は殴ったり蹴ったりする格闘技ですので、どうしても安全面が担保されない限り五輪競技化が難しいといった事情がありました。

そのほかにも、柔道に似てるからと帯より上体を使った投げ技を禁止することになり、75㎏級で銀メダルを獲ったアゼルバイジャンのアガイエフ選手は得意技が使えなくなったりもしました。

空手はもともとは両手でつかんでの投げも有効でしたが、近年に禁止されました。

片手で一瞬ならば(2秒以内などと言われています)掴んで投げたりしてもよい、と改定されています。

五輪のためにかなりスポーツ化を目指したのですが…

これだけルールを変更していったにもかかわらず、結局、空手は「寸止め」と言いながら格闘技であり、安全に行うことは難しい現実を見せる結果となってしまいました。

終了間際のラフなやり取りに疑問を抱いた方もいたでしょう。

5.ペナルティ、違反の不明瞭さがすごすぎてよく分からない問題

違反のC1、C2というのもよくわからなかったと思います。

カテゴリー1(攻撃部位への過度の接触など)とカテゴリー2(場外、不活動、つかみなど)という意味なのですが、それぞれの違反が4回たまると反則負けとなります。

柔道だとよほど危険な行為以外は「指導」で、指導が四つたまると反則負けとなります。

空手はその指導が2種類あるような感じです。

慣れていると分かりますが、テレビ放映だと簡単な説明をされただけでは理解できないですよね。

たった3分の試合で、C1やC2の反則が4回もたまるか?という疑問もあったと思います。たまりません。実際にC1かC2の違反で反則負けになった選手っていましたっけ?

これは、通常の大会でもまず起こりません。

C1を3回、C2を3回と一試合のうちに計6回も反則をしても許されるというのは、見ていて気持ちがいいものではありませんね。

礼節を重んじる武道で反則を6回もしていいとされるルール…設計上、問題があると思います。

今回の大会でも、試合時間が残りわずかとなれば故意に反則を犯し時間を稼ぐ選手が散見されましたし、初めて見る人にとってはこんなこと許されるのか?という感じを与えた気がします。

4回ではなく3回で失格にするか、そもそもC1とC2の区別をなくして柔道みたいに「指導」だけで4回で反則負けにするかなどしないと、見ていて理解しがたいだろうなというのは課題だと感じました。

ちなみに、元々個人組手戦に引き分けは無く、同点で終了した場合は審判団の判定(世界でもHanteiと言い、voteと理解されています)とします。

しかし、三位決定戦以降は、同点の場合は判定ではなく1分延長となります。

そういう時には、C1やC2がたまっていると延長の中で反則負けになる可能性がありますので、まったく意味がないルールということではありません。

とはいえ、柔道と違って違反の回数が決定的な要因になった試合はほとんどなかったので、世界空手連盟は再考を求められるでしょう。

剣道はオリンピック競技化や妥協した国際化を目指さない方針で、反対に柔道は青道着やルール改定なども受け入れて国際化を目指す方針です。

大河ドラマの「いだてん」を見た人は、日本人初のIOC委員、加納治五郎が柔道の国際化に励むシーンが記憶に残っている方もいるかと思います。

空手も五輪に受け入れられるため、柔道よりもより国際化のために海外(特にIOCに強いヨーロッパ諸国)の意見を取り入れルールを分かりやすく何度も改訂してきたのです。

その結果が現行のルールなのですが、世界の視聴者に受け入れられるにはまだまだ課題がありますね。

6.最後に、今後のオリンピックの空手について

色々ありましたが…ついに、終わってしまった。

やっぱりオリンピックでの空手は選手の意気込みも違い、最高にエキサイティングでした。

空手はマイナー競技なので距離感も近く、代表選手をまじかで見れる機会も多いし、知人友人に世界連盟や全空連、代表団に関わる方もいて、初めて五輪種目にこれだけの親近感を持って観戦していました。

喜友名・清水両選手の堂々とした形は一生忘れないと思います。

これこそが真の形だと感動しました。

荒賀選手、西村選手は本当に紙一重の差でした。

佐合選手も篠原選手にまさって出場できたのに、無念だったと思います。

女子組手選手はなかなか実力を発揮できませんでした、小柄な日本人選手にとって、世界の壁は高いなと再確認させられました。

オリンピックでの空手は、次回パリでは落選しました。

ロス、ブリスベンともに空手が強い国での開催ではないので、復活はそう簡単ではないですね。

今ではオリンピックに定着している柔道も、1940年東京五輪に初めて採用決定されたのちに中止、1964年東京で再採用されましたが、1968年メキシコシティーでは除外されました。

1972年ミュンヘンで復活採用され、1992年にはバルセロナで女子も採用されました。

女子柔道の1988年ソウルでの公開競技としての実施と、バルセロナ五輪での初採用のストーリーは柔道漫画として一世を風靡したYAWARA!に詳しいです。

主人公の猪熊柔は短大時代にソウル五輪に出場し、その後はバルセロナ五輪にも出場して、その次のアトランタを目指すところで終了しています。

空手も、ぜひそうなってほしい。

それにしても、今回限りというのはやはり寂しいです。

課題も散見されましたが、今回がはじめての空手。

柔道のように復活採用を目指し、今後の五輪での正式競技化が実現されることを強く願います。

#Tokyo2020 #空手 #StrongerTogether

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